インド建築を巡った中で強く印象に残ったものが幾つかあった。

その1つは、インド中央部に位置し世界遺産にもなっているエローラの石窟寺院郡であった。石窟寺院とは岩石を彫って造られた建築で、これまで建築を造る事は材料を積上げたり、組立てるものだと思っていたのでこの様な建築方法に驚いた。

寺院郡は、南西方向に面した崖地に2kmにわたって6~9世紀に完成した合計34の仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教の寺院によって構成されている。それぞれの寺院が破壊されることなく現存しているので、お互いの信仰を尊重する寛容さがあったのだろう。建築空間も各寺院で内部空間が異なり、アーチ状の天井のある寺院、中庭を有する寺院、四角の柱が並んで、現在私たちが目にする建築に近い空間を有する寺院もあった。それぞれの異なる空間は、巡っていて飽きることがなかった。

エローラの中で最大の寺院は、カイラーサ寺院という8世紀に建てられたヒンドゥー教の寺院で、玄武岩を幅45M、奥行85M彫り込んで、完成まで100年を要したと言われる建築だ。最初にこの寺院を見た時は、そのスケールと造り上げた人間の力に圧倒され立ち尽くしてしまった。寺院は外部、内部とも細部まで細かい文様やヒンドゥー教の神々が彫られており、根気よく岩を彫って神に捧げる空間や彫像を彫った人の思いが伝わってくる様な建築であった。

もう1つ印象に残った建築は、西インドのアーバネリーという村にあるクンダという1辺が35m四方の階段池だ。池の三面が地上から地下に降りる無数の切石の階段があり、もう一面は、地下7層に部屋が積み重なっており、井戸や祭祀の場などになっている。この建築は地下に行くに従って池の面積が小さくなっており、全体はピラミッドを反転させたような形態だ。この階段池は乾期があるこの地域に雨季に降った雨を貯めておくための施設で、地下7層まで続く規則的に配置された多くの小階段の連続が圧倒的な空間と幾何学的な美しさを生み出している。

インドに旅行に行く予定がある人には、この二つの建築はお薦めである。